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2012/4/21 公開 

九八式射爆照準器

九八式射爆照準器

 九八式射爆照準器

 東京光学機械株式会社製造品

 第726号 昭和19年4月製

 武器学校 資料館保存品

 陸上自衛隊土浦駐屯地 武器学校 オフィシャルサイト
 (陸上自衛隊土浦駐屯地/茨城県土浦市阿見町)

★九八式射爆照準器とは?

 九八式射爆照準器とはドイツのRevi2B光学式照準器を改良、国産化したもので、上向きに取り付けた照準器映像を45度に傾斜させたアクリル板に投影して照準する、当時としては新型の光学式照準器でした。 それまではライフルのスコープのような眼鏡式照準器を使用しており、これはうまく調節しながら覗き込む方式であまり使い勝手は良くなかったようです。 九八式射爆照準器は今で言うところのHUD(ヘッドアップディスプレイ)で、十字と円形の照準映像をアクリル板に投影し、その中に敵機の姿を捉えて機銃を発射します。 空戦中の敵機と自機は激しく機動しており、普通に狙ったところで目標には命中しません。 機銃弾は重力で落下するし、命中までに1秒近くかかって、それまでに敵機が動いてしまえば当たらない為に偏差射撃が必要となります。 その偏差をやりやすくしたのがこの照準機です。

 私も詳しい資料をまだ見た事ないのであまりはっきりした事は書けませんが、この照準器は富岡光学機械製造所、千代田光学精工株式会社、日本光学工業、東京光学機械など数社が製造しており、細かいバリエーションもいくつかあったようです。 大別すると戦闘機用の十字と円を組み合わせた対空射撃用照準器(1型)、爆撃機用の円と方眼マスを組み合わせた対地対艦爆撃用照準器(2型)があったようです。 富岡光学機械製作所は現在の京セラ、千代田光学精工株式会社は現在のミノルタ、日本光学工業は現在のニコン、東京光学機械は現在のトプコンであるようです。 どれもカメラやレンズなどで有名な会社ですね。 ここで紹介する武器学校のは東京光学器械株式会社製造品です。 照準映像は白色と赤色の2つを確認しました。 切り替え式なのかもしれません。 武器学校で展示されているものは赤色照準映像となってます。 白色も投影できるのかどうかはまた今度確認してみます。

 武器学校で展示されている九八式射爆照準器は数年前に倉庫整理の際に発見されたもので、ほぼ現状のままでしたがアクリル板が無かったそうです。 そこでその部分などをレストアし、零戦のコクピットを模したディスプレイに設置して展示してあります。 初公開の時、どこかの光学機器メーカーと思われる方々が来訪された際、これを見て「ウチに言ってくれればタダで喜んで再生したのに〜」と言われていました。 やはり技術者としては関心が高いのでしょう。 今後こういう機器が発見されたりした場合、試しに関連するメーカー数社に相談してみればレストアしてくれるかもしれませんね。 この照準器は武器学校の資料館内の小火器コーナーで展示されていますが、通常一般公開はされておらず、10月の創立記念行事の他、毎年何日かの公開日でのみ見学する事ができます。 詳しくは武器学校オフィシャルページをご覧下さい。

 なお、調べていてレプリカモデルの販売も見つけました。 マツモデルデザイン なかなか男心をくすぐる面白いモノを販売されています。 灯台シリーズは、江ノ島灯台があったら買っていたかもしれません(笑) こちらで製作された照準器は呉の大和ミュージアムの零戦などに搭載されているようです。 後部のゴムパッドが茶色とか赤とかになってるのは本物もそうだったのでしょうか? 武器学校の九八式は黒でしたが。

サムネイルの大きい写真はオフ会メンバーのベアキャットさんからのご提供です。 ありがとうございました!
 なお、私が撮った写真はホワイトバランスの設定を間違っていて黄色くなっています(汗) 実際はこんなに黄色くありません。
 三脚を使用してないのもあって画質はかなり良くありません。
 禁止されていたわけではありませんが、まあ見学者もかなりいましたし、そういう状況ではあまり使うべきではないかなと。
 今回使用した写真はベアキャットさんのも含めて全て2011年10月2日の武器学校創立記念行事のものです。

 現在小火器コーナー(資料館内)は、毎月1回(第4水曜日:基準)、事前見学申込により見学する事ができます。
 開設記念行事(駐屯地祭)でも一般公開され見ることができます。

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 (ベアキャットさんご提供)

展示状況。 零戦のコクピットとキャノピーの前部分が作られディスプレイされています。 前方に空の背景と小さな戦闘機の模型が置いてあり、照準器を覗いた時に200m程先に飛んでいるように見えます。 

 

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

九八式射爆照準器 (ベアキャットさんご提供)

照準器を覗いてみます。 照準円は赤色表示されており、この中に敵機を捕らえて照準します。 なお、敵機の向きを考えると速度、距離の偏差的にこの状況から7.7mm機銃を発射してもまず当たらないでしょう。 どんな風に見えるかのディスプレイとしてお考え下さい。 中心から外円が約100m、内側の点線内が約200mで、この敵機は向きと大きさから220〜230mくらい先を左上に向かって飛行していると判断できます。
零戦が装備する7.7mm機銃と20mm機銃では弾道がまったく違いますが、特にそれぞれ用の照準とかは無いようです。 ションベンとも言われた20mm弾が100m、200m先でどの辺に落ちるのか知りたいですが…。
下のがベアキャットさんご提供の写真ですが、色合いはこちらが正しいです。

 

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 (ベアキャットさんご提供)

九八式射爆照準器の説明。 三脚を使ってないのでかなりピンボケしていてすみません。
予備照門、照星は起倒式で、通常は左側に倒してあります。 電源が切れたりとかで光学式を使えなくなった時の予備としての直接照準器です。 レンズの部分から上向きに照準が投光され、反射ガラス(アクリル)に投影される仕組みです。 抵抗器はダイヤル式で、照準の明るさを調節ます。 右へ回すと「明」、左が「暗」です。 ネジは一部をのぞき全てマイナスネジのようです。
「反射ガラスへの投影メモリ」は距離100mにおける横向きの単発戦闘機のおおよその大きさの目安です。

 

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

キャノピー越しに見た九八式射爆照準器。

 

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器
(6枚全てベアキャットさんご提供)

ベアキャットさんご提供の細部写真。
左側のプレートには「東京光学機械株式会社製造 第726号 昭和19年4月製」とあります。
号数の左右の銀色の丸にはおそらく錨の刻印があるようですが、大きさなどが合っておらず、左右でもズレています。
ゴムパッドは経年劣化でヒビ割れています。 抵抗器はダイヤル式で左右に回して照準の明るさを調節します。
右側は照準調整関連のネジなどがあります。 @ACの調節ネジが右側、Bのみ左側にあります。 なぜかCだけプラスネジです。 

 

九八式射爆照準器 九八式射爆照準器 九八式射爆照準器

この九八式射爆照準器は国内でもほとんど現存しておらず、実物は2百万もの値段がついたりするようです。 まあ本体である零戦だって実物はほとんど現存していないのだから無理もありませんが…。
今回のこれは武器学校の前身が予科練飛行学校であったためか、敷地内にある相当に古い倉庫に眠っていました。 昭和初期の木造学校のような建物で、現在は整理され、M4中戦車とM24チャーフィー軽戦車の実物カットモデルエンジンが展示されています。 すぐ横にある霞ヶ浦(湖というか沼)の底も漁ればヘドロの中に零戦の1機くらい沈んでいるかもしれませんね。

 

★九五式射爆照準器

九八式射爆照準器の右側に設置してあった九五式射爆照準器です。 鏡筒式射爆照準器と呼ばれる形式のもので、ドイツのオイジー型望遠照準器を制式化したものが九五式射爆照準器であるようです。 基本的にはライフルスコープなんかと同じ形態のものですが、高Gがかかる戦闘機動中にこれを適正に覗くのはかなり無理があったのではないかと思いますが…どうなんでしょうね?

九五式射爆照準器 九五式射爆照準器 九五式射爆照準器

ライフルスコープと同じなので適正位置で覗かないとはっきり見えません。
右側にあるのは零戦用20mm機銃です。

 

★各種砲弾

  

オマケの各種砲弾類。
本来ここには大量の重火器が展示されているのですが、諸事情によりまだ展示はしません。 以前に広報の方とお話した際に、ここの火器類についてはあまり告知して欲しくないと言われたからですが、現在は方針が変わって日本のボービントンにしようという方向で展示に力が入れられています。 この火器コーナーも思い切りリニューアルされて見事な展示場へと変貌しました。 いずれ紹介できるかもしれません。

 

【緊急のお知らせ】

 これまで自由に行って見学できた武器学校でしたが、2013年4月8日から警備体制の変更により、自由見学が中止となってしまいました。 現在は2週間前までの事前申し込み制となっており、知らずに行くとお断りされてしまうそうです。 雄翔館と雄翔園は管理が変更になったので外側から入れるようになっていますが、これまでの一般見学用広報区域は事前申込制となっていますのでご注意下さい。 これは基本的には一般の駐屯地の見学制度とほぼ同じになってしまったという事です。
 例外として観桜一般開放、開設記念行事などでは一般公開であるので必要ありません。

 詳細は 武器学校オフィシャルサイト 見学のご案内 及び

 見学申込についてのご案内 (申込書:PDFファイル) をご覧下さい

 2週間前までに必要書類をコピーして郵送しておかなければなりません。 それ以前に電話で申込の確認、日程や時間の調整をしておくと間違いがないでしょう。 申込書は上記「見学申込についてのご案内」内にpdfファイルで用意されていますので、プリントアウトして記入、郵送して下さい。 プリントアウト環境がない場合はプリンターのあるネットカフェなどを利用されるか、駐屯地に電話連絡してFAXで送ってもらうといいでしょう(郵送はおそらくしてくれません)。
 駐屯地一般見学の他、許可が出れば部隊見学(取材)等申込もできます。 私も過去に戦車研究室のオフ会で申し込みました。 当時は部隊見学ではなく、公開されていなかった火砲館や資料館の見学を広報担当の方の説明を受けながら行いました。

以上、ご注意下さい。
※訂正漏れで一部記事に一般自由見学と書かれている場合は訂正して読んで下さい。

 

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